
前の道路に停めた車から職人が降りて来た。
「ちょっと見ててくれ」
そう言ってその職人は現場内に入って行った。
この道路は駐車禁止だ。
ガードマンが違法行為の手助けなんてできるわけないだろ。
内心そんなことを思いながら、ふと昔の記憶が蘇って来た。
それはまだ前の会社にいた時のことだ。。。
私はガードマンになりたてで、すぐにやめるつもりだったので、あまり真剣に仕事を覚えようとはしていなかった。
そんな矢先、とある現場の応援へ行った。
隊長は、正義のガードマンと言われるIさんだった。
正義のガードマンとは聞こえはいいが、堅物で融通が利かないという意味で、誰かが皮肉を込めて付けたあだ名だった。
ある時、職人の一人が現場内に通勤車両を停めた。
「すみません。荷物を降ろしたら、近くのコインパーキングに入れてください」
正義のガードマンのIさんが職人に言った。
職人はすかさず「ちょっとだけだから置かせてくれよ」と威圧的な口調で言った。
「いえ、搬入車両の邪魔なんで、コインパーキングに停めてください」
「打ち合わせに来たんだよ。すぐ出るから」
職人の「すぐ出るから」は嘘だ。
絶対に信じてはいけない。
私もこれまで何度騙されたことか。
「すぐってどのくらいですか?」
「打ち合わせだから一時間くらい」
「ダメです。すぐに持っていってください」
正義のガードマンはきっぱりと毅然とした態度で言った。
すると職人の口調が急に荒くなった。
「一時間くらいだって言ってんだろうが!」
その言葉に正義のガードマンがキレた。
「駐車場代くらい俺が払ってやるよ。さっさともってけ!」
すでに周りに野次馬の職人たちが集まって来ていた。
ガードマンに駐車場代を払わせたとなったら、職人のプライドはガタガタだろう。
職人はふてくされながら、渋々車をコインパーキングへ移動させた。
すごい!
正義のガードマンってホントだ。
それから2時間後(やっぱり嘘だ)さっきの職人がIさんの前に現れた。
「お前、駐車場代払うって言ったよな。払えよ」と言った。
するとIさんは、サイフから2千円を出して(近くのコインパーキングは一日最大2000円だった)その職人に叩きつけるように渡した。
「駐車場代も払えないのか? 貧乏くさい鳶だな」
決まった!
このセリフは職人の脳天から突き刺さっただろう。
職人は2千円を拾い集め、そそくさと去っていった。
当然何も言い返せない。
後は暴力しか術がないが、暴力を振るったらそれで終わりだ。
「おい、釣りはないのか? 引き算もできないのか、お前は」
職人は何も言い返さず、2千円を放り投げて帰って行った。
恥の上塗りだった。
Iさんって、すごい人だ。
私はこの人を目指そう。。。
前の道路に車を停めた職人が戻って来た。
「悪いね。今出すから」と私に言った。
私は毅然とした態度でこう言った。
「いえ、どうせ暇ですから」と愛想笑いを浮かべ職人の車を見送った。
正義のガードマンには程遠い。。。(-“-)
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