※粉瘤(アテローム)とは、表皮嚢腫とも呼ばれる良性の腫瘍。（稀に癌化するものもあるらしい）皮膚の下に袋状の組織ができ、そこに皮脂や角質といった老廃物が溜まったもの。基本的に皮膚のある場所なら何処にでもできる可能性がある。
15年ほど前、背中の中央に3センチくらいのこぶのようなものができた。
医者に行くと粉瘤だと言われ、手術で取り除かないと自然に治ることはないと告げられた。
手術と聞くと、ついつい二の足を踏んでしまう。
特に痛みもなかったので15年間そのまま放置していた。
それが1週間ほど前、背中の粉瘤の辺りを柱に思いっきり打ち付けて、痛みと共に血や膿のようなものが出て来てしまった。
おそらく嚢腫壁が破れて炎症を起こしたのだろう。
こうなったら医者に行って手術してもらうしかない。
背中を鏡で映して15年ぶりの粉瘤とのご対面。
なんと、3センチほどだった粉瘤が10センチくらいに肥大していた。
こりゃあ手術代もかさむな。。。
ネットで「粉瘤（ふんりゅう）」を調べると、けっこう専門の病院が存在する。
一番通いやすいところに決めて電話をかけた。
「診察の予約をしたいんですが」
「手術を希望ですか？」
「はい、できれば」
「じゃあ、〇日の15時でどうでしょう？」
私はまだ「粉瘤」とは一言も言っていない。
この病院は「粉瘤」以外の治療をしていないのか？
「え？ 診察してからですよね？ だって素人の見立てで本当に粉瘤かどうかわからないし」
「はい。診察した後、手術です」
まだ診察もしていないのに手術の日取りを決めるんだ。
さすがに不安だったが、ホームページを見ると、一日で手術して帰宅できるのが売りらしい。
なら、いいか。（ホントか？）
それに料金が一目でわかるように掲載されている。（粉瘤の大きさによって値段が違う）これは良心的？……なのか？
手術当日、緊張しながら予約の時間に病院を訪れた。
問診表を書いて診察室の前で待っていると、優しそうな好青年の先生が招き入れてくれた。
患部を見せると「化膿してますね」と先生が言う。
「手術できますか？」
「大丈夫ですよ。ただこれだけ化膿してると、麻酔が効かないかも知れませんね」
「それはちょっと……」
すると先生は看護師の女性に、何とかっていう薬を用意するように指示した。
たぶん強力な麻酔か？
知らないけど。。。
それから処置室の前で待つように言われ、手術の説明書（読んで理解したらチェックを入れる）と同意書にサインをさせられた。
すぐに処置室に呼ばれ、上半身裸になって手術着を背中が開くように前後逆に着て、ベッドにうつ伏せに寝た。
丸い中央に穴の開いた枕と腹部にあてがうクッションがあった。
穴の中に顔を突っ込むのか、それとも顔を横向きにするのか迷ったが、手術が始まるとそんなことはどうでもよくなった。
先生がやって来て、最初に麻酔を打った。
たぶん10本以上。
多くない？
それが痛いのなんの。
ただそれは序章に過ぎなかった。
粉瘤が皮膚の中に袋状のものができて、その中に老廃物が溜まって膨らむということは知っていた。
だからまず、外側の皮膚を切開する。
中のドロッとした老廃物を出す。
中の袋状の構造物を引っ張り出す。
この袋状のものを引っ張り出すのがかなりの苦痛だ。
当然癒着しているのでメスで切りながら徐々に引っ張り出す。
とても麻酔が効いてるとは思えなかった。
人生で一番の激痛だ。
時間にして10分くらいだろうか。
あまりの痛さに、よだれは垂らすは、鼻水は出るは、涙はボロボロ流れるはで枕がぐっしょりと濡れた。
やっとのことで、袋状のものをかき出す作業は終わり、あとは縫合だけだ。
だが、ここらもさらに地獄は続く。
肌を針と糸で縫い合わせているのがわかる。
数本縫っては皮膚の弛みをグイグイ伸ばしている。
スマホの画面の保護フィルムを張るのと一緒だ。
空気が入っていてはいけないので、少し縫っては空気を押し出し引っ張る。
また縫っては空気を押し出す。
スマホになった気分がわかるか？
私にもわからんけど。
ついに終了。
「終わりましたよ」と先生の声が聞こえた。
もうベッドから立ち上がれない。
先生と入れ替わりに、看護師さんが入って来た。
私の涙でぐっしょり濡れた情けない顔を見て「大丈夫ですか？」と聞いて来た。
「しばらくここで休んでいてもいいですか？」
「次の患者さんがいますから、少しなら」
安息の地はここにはない。。。(-“-)
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